2025年秋季特別展関連イベントとして、俳優の北大路欣也氏をお招きして早稲田大学と北大路氏のご縁やこれまでの俳優人生についてお話を伺う講演会を開催した。
冒頭、聞き手でもある児玉竜一館長から来場者に向けて一言あいさつが述べられた後、2025年度早稲田大学入学式における北大路氏の芸術功労者受賞記念スピーチの映像を鑑賞した。早稲田大学の芸術功労者には、大学から学帽・マント・メダル・賞状が贈られる。映像の中の北大路氏はそれらの学帽・マントなどを身に着け、まるでドラマの一場面のように威風堂々とスピーチを行っていた。そしてスピーチ映像が終了した後、児玉館長の招きで映像と同じ学帽・マント姿の北大路氏が会場に登場し、会場からは万雷の拍手が巻き起こった。
講演会は前半、後半に分けて行われた。前半は関連展示「北大路欣也展」の展示風景をスクリーンに投影し、展示に絡めて北大路氏の業績などの紹介が行われ、父・市川右太衛門氏の来歴や北大路氏のデビュー作映画『父子鷹』(松田定次監督、1956年)に関連したエピソードをお話しいただいた。特に北大路氏演ずる勝麟太郎少年が泣くシーンで何度もNGを出してしまった時、母親役の長谷川裕見子から「私の目を見るのよ。言葉を聞くのよ。感じるのよ。それだけなのよ」と伝えられた言葉に従うと自然と涙がこぼれたのだというエピソードは実に感動的であり、往年の名女優の演技力と人としての優しさを感じさせた。
休憩を挟んだ後半、芸術功労者の学帽・マント他は壇上に飾られ、北大路氏はシックな三つ揃いのスーツに衣裳を変えて再登場した。話題は映画だけでなく舞台やテレビでの活躍にも及んだ。特に北大路氏主演舞台作品として著名な三島由紀夫作「癩王のテラス」(帝国劇場、1969年)の件では、席を立って大隈講堂の舞台の前方に進み、終幕近くで演じた右手を高々と掲げたポーズが再現され、客席からは思わず感嘆の声が漏れた。その劇中の右手を掲げたポーズがそのまま陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地総監部のバルコニーで三島由紀夫が行ったポーズであったことや、その時の衣裳である「楯の会」の制服の仮縫いを「癩王のテラス」の楽屋で行っていたことなど、現代演劇史・文学史に残る貴重な証言がなされた。
『八甲田山』(森谷司郎監督、1977年)の雪中行軍の撮影中に加山雄三に命を救われた話や、市川右太衛門の代名詞であった「ご存知 旗本退屈男」の歌舞伎座上演(1986年8月)の際の逸話(右太衛門は歌舞伎座の舞台で「ワシに、ぴったりの劇場だ」と漏らされたよし)など、全篇に亘って貴重なエピソードの宝庫であった。後半少し延長し、休憩含め100分超えの長丁場だったが、北大路氏は始終溌剌と疲れを見せずに「北大路欣也、大いに語る」との講演タイトル通り、大いに語って頂いた。
終了後のSNSなどの反応や来場者アンケートにおいても、北大路氏のトークは絶賛一色であり、実に充実したイベントとなった。

講演中の北大路欣也氏

「癩王のテラス」の一場面の再現

大隈講堂貴賓室にて北大路氏と児玉館長

早稲田大学文化功労者に贈られる学帽・マント・メダル
▼ イベント詳細
2025年度秋季特別展 早稲田大学芸術功労者受賞記念 北大路欣也展
[日時]2026年1月15日(木)18:00~19:30
[会場]早稲田大学 大隈記念講堂大講堂
[出演]北大路欣也(俳優)、聞き手・児玉竜一(早稲田大学演劇博物館長)
[主催]早稲田大学演劇博物館・演劇映像学連携研究拠点
[協力]株式会社ホリプロ・ブッキング・エージェンシー
原田真澄(はらだ・ますみ)
早稲田大学演劇博物館・学芸員。早稲田大学にて博士(文学)取得。専門は人形浄瑠璃文楽。主たる業績は、展示図録『近松半二――奇才の浄瑠璃作者』(演劇博物館、2022年)、「築山殿と松平信康事件 虚像編」(堀新・井上泰至編『家康徹底解読 ここまでわかった本当の姿』(文学通信社、2023年)所収)等。


