enpaku 早稲田大学演劇博物館

オンライン企画

Lost in Pandemic――失われた演劇と新たな表現の地平

展示趣旨

2020年の演劇界は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって厖大な数の公演が中止や延期を余儀なくされた。最初の緊急事態宣言解除後、劇場の扉は開きはじめたが、誰もが薄氷を踏むような思いで苦境に立ち向かっていた。
さらに、2021年に入って、二度の緊急事態宣言が発出。今なお世界はパンデミックの渦中にあり、一年前の既視感を味わうような混迷の時代を、私たちは生きている。
本展は、コロナ禍の影響下にある〈いま・ここ〉を、演劇という視座から記録し、後世に伝えることを企図したものである。コロナ禍によって、演劇の時間が止まろうとしたとき、多くの人びとが、それぞれの場所で「自分に何ができるのか」を考えた。未知の疫禍を前に、いかに演劇をつなぎとめ、残すことができるのか、を――。本展で紹介するのは、事態がとくに混乱をきわめていた、2020年の、いわば序盤戦における模索と試行錯誤の記録である。
この一年余、何が失われ、何が得られたのか。コロナ禍の社会を象徴する「新しい生活様式」の実践例は、演劇にとっても無関係ではなく、日常生活が演劇と地続きであることを浮かびあがらせた。種々の制約を超克すべく新たな表現の可能性も萌している。
また、かつて日本で起こった疫病や感染症に、演劇がどう対峙してきたかを示す館蔵資料等も発掘・紹介する。私たちは過去から何を学びうるのか。翻ってみればそれは、私たちが未来に何を残せるのか、という課題にほかならない。
演劇が世界を映す鏡であるならば、コロナ禍に侵された私たちの生活や社会と演劇はどのようにつながっているのか。本展は、日常化した非日常を漂流しながら、再生への時間を待ち続けるための里程標である。

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