このたび早稲田大学演劇博物館では、春季企画展「演劇は戦争体験を語り得るのかーー戦後80年の日本の演劇から一」を開催いたします。戦争文学や戦争映画は世間的にもよく知られていますが、演劇というジャンルにおいても、原爆や沖縄戦などをはじめとする戦争を題材とする作品は数多く生み出されました。『「戦争と平和」戯曲全集』全15巻(日本図書センター、1998年)に収録された作品群などがその主流といえるでしょう。その上で本展では1990年代生まれの若手研究者が主体となり、過去の演劇における戦争についての語りや表象を現在の視点から見ることを目的に、作品を選定いたしました。
役者が眼前で戦時中の人びとや戦争に関わった人びととして生き直し、生の言葉を発する演劇は、戦争の犠牲者が今も世界中で増え続けているという現実といみじくもずなり合います。劇の中の戦争が外の現実と響き合い、過去の演劇が現在へと語りかけてくる一ーここに演劇というメディアのもつ力があるといえるでしょう。
戦後80年という機会に、演劇を通して過去の戦争に思いを馳せると同時に、現在の戦争とも向き合うひとつのきっかけになれば幸いです。