会場:演劇博物館企画展示室Ⅱ
入館無料
-カメラの位置が決ると演出者なり監督が合図をします。レディー・アクション・・・カメラ! でそのポーズの侭人形の如く五秒なり十秒、夜の場面なぞになると二十秒もかけた事があります。このレディー・アクション・カメラなる語は新劇の舞台写真の合言葉的存在になつた感があります。(坂本万七)-
何気なく目にする舞台写真。しかし舞台写真は単に舞台を撮影した二次的な付属物ではありません。少なくとも昭和初期にあっては、舞台写真はその<芸術性>だけでなく、生の舞台を写真とし記録するという行為そのものが、一つの冒険でした。カラーの現実をモノクロの印画紙上でどう表すか、動く俳優を固定された画像でどう見せるか、といった表現上の問題だけでなく、例えば実際の舞台と同じ照明だけで撮影するといったこと自体が、多くの試行錯誤の上に成された実験だったのです。その意味で舞台写真は、舞台人と写真家の協力によって生まれたもう一つの「舞台」だとも言えるでしょう。
大正~昭和の新劇を撮影し続けた坂本万七。本展示は、彼が残した貴重なガラス乾板の舞台写真を中心に、築地小劇場の内部写真など新たに発掘された未公開写真を多数展示いたします。写真家が写し出したもう一つの「舞台」をお楽しみください。
坂本万七(さかもとまんしち) 1900(明治33)-1974(昭和49)
広島県福山市生まれ。1919年、宮崎県の「新しき村」に入村し、独学で油絵を描く。21年に上京、品川写真研究所で写真術を学び、22年からは三笠写真展に移り営業写真師となる。24年、土方与志と小山内薫が築地小劇場を創立すると同時に、その舞台写真を担当するようになる。26年、桃源社坂本写真場を開業する。舞台写真の他に、民芸品や仏像など美術写真に才能を発揮した。