会場:早稲田大学構内、早稲田小劇場どらま館
対象:小学校5年生/6年生、中学校1年生/2年生/3年生
2018年8月8日から10日まで、演劇博物館にて第2回こども演劇教室が開催されました。講師には、青年団主宰の平田オリザ先生、そして同劇団に所属する天明留理子氏、村井まどか氏、村田牧子氏、森内美由紀氏、堀川炎氏氏をお迎えしました。小学校4年生から中学3年生までのこどもたち26名が本イベントに参加し、平田先生のご指導のもと、演劇について学び、体験しました。
初日は、平田先生のご挨拶の後、コミュニケーションゲームや俳優訓練で使用されるエクササイズなどを体験しました。こどもたちは出会ったばかりで少し緊張しています。そこで、平田先生は、こどもたちがあるテーマに基づいてグループを作ったり、想像上のロープを用いて長縄跳びをするという活動を行いました。あるいは、参加者に番号が書かれたカードを配布し、大きな数字が書かれたカードを持っている人は活発な趣味を、小さな数字が書かれたカードを持っている人はおとなしい趣味を持っているというルールのもと、社交パーティーで一番自分の趣味に近い相手を1人見つけるという活動を行いました。そして、それらの活動を通して、平田先生はこどもたちの緊張を和らげるとともに、演劇(対話)の基本要素である「他者とのイメージの共有」について指導されました。
その後、台風が接近していたこともあり、こどもたちはさっそくグループに別れて、3日目に発表する劇の準備に取り掛かりました。その際、各グループは、平田先生が用意された4つのシチュエーションを参考にして自分たちの物語を考えました。例えば、シチュエーション①には、「喫茶店で数人が会話している。中学卒業後一年後に、久しぶりに友人たちと会う。1人、来るはずだった友達が来ない」とあり、それに基づくいくつかの課題と参考プロットが提示されています。この日、各グループは、その4つのシチュエーションの内容を確認し、その中のどれを選択するか、そしてそのシチュエーションをどのように膨らませていくかという相談しました。
2日目は最初からグループに分かれて劇の創作の続きを行いました。この日は物語の流れを固めつつ、各プロットにおける登場人物の出入りなどを検討しました。その際、平田先生は、こどもたちに各プロットが観客にどのような情報を伝えるのかを確認しながら、そしてその情報とその情報を伝えるためのエピソード(実際に語る内容)をうまく差別化していきながら劇を作っていくのがコツであると説明されました。
途中、自分たちのグループの劇を創作する傍ら、短い台本を使用した劇の勉強も行いました。それは電車のボックスシート(4人掛けで向かい合わせに座るタイプの座席)での出来事で、それぞれのシートに1人ずつ、合計2人の乗客が座っています。そこにもう1人の乗客が入ってきて、手前のシートの空いている座席に座ります。そして、3人の間で会話がはじまります。今のこどもたちは、普段の生活の中で初対面の人に話しかける機会がほとんどありません。そのことを前提に、平田先生は、参加者に「みなさんは、普段、初対面の人に自分から話しかけますか」と質問し、海外の事例も交えつつ、参加者にどういう状況であれば登場人物が相手に自然に話しかけることができるのかを考えてもらいました。そして、その活動を通して、平田先生は、1990年代以降の演劇教育では、対話を「個人の問題」(例、腹式呼吸や気持ちを込めるなど)として捉えるのではなく、「相手との関係」や「場の問題」として捉えるようになっていると話してくださいました。
3日目、各グループは順番に劇の発表場所である「どらま館」を訪問し、実際に使用する舞台に照らし合わせながら、自分たちの劇の手直しをしていきました。そして、午後、客席に保護者を迎えて本番の公演を行いました。最初のグループは「演劇学園 合唱部」と題する劇を、2つ目のグループは「銀河鉄道の夜」と題する劇を、3つ目は「昇天 快速特急はるかぜ列車」と題する劇を、4つ目は「恋愛コンクール」と題する劇を、5つ目のグループは、「Center」と題する劇を発表しました。各グループは、用意されたシチュエーションを見事に発展させ、たいへんユニークな物語を完成させました。そして、発表後には、平田先生が各グループの劇の講評を行い、また、各グループで他のグループの劇の良い点や改善可能な点などについて意見を交わしました。
どうして演劇は、私たち人間やこどもたちにとって大切なのでしょうか。演劇教室を終えるにあたって、平田先生は、参加者に「劇作家のお仕事というのは、どうすれば人(登場人物)が一番困るかを考える意地悪なお仕事です。例えば、おじいちゃんのことが大好きな孫が、糖尿病のおじいちゃんに初めてケーキを焼いてきました。さて、どうしましょう? でも、そういう視点は、ぼくは人生によって大事だと思うので、そういうことを考えるということが、みなさんの人生を豊かにすればいいなと思います」と述べられ、本活動を締めくくられました。
最後はみんなで記念撮影
撮影:Yuka Kikuma
平田オリザ (ひらた おりざ)
劇作家・演出家。劇団「青年団」主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督、城崎国際アートセンター芸術監督。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐。1962年東京生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」を結成。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス国文化省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2002年以降、国語教科書に採用されたワークショップの方法論に基づき、多くの子どもたちが教室で演劇を創作している。