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イベントレポート

企画展「築地小劇場100年―新劇の20世紀―」関連イベント

築地小劇場100年と文学座―文学座「摂」上演にちなんで―イベントレポート

 昭和12年に創設され、87周年を迎える文学座からは大ベテランの新橋耐子さんをはじめとするご活躍の皆様をお迎えした。新橋さん、原さんからは、戦後文学座の中心的人物であった女優の杉村春子について、特にお話を伺うことができた。文学座創設にも関わった女優の田村秋子を杉村が尊敬しており、若い人々に対して田村についてしばしば語ったという挿話は非常に興味深い。「女の一生」の舞台や杉村の楽屋での姿、地方公演の際の杉村からの厳しいダメ出しの思い出話なども面白く、新劇における地方公演の重要性と共に記憶されるべき話である。残された杉村の「女の一生」の舞台映像をみて、新橋さんが涙する場面もあった。

築地小劇場100年と文学座―文学座「摂」上演にちなんで― イベントレポート

 また文学座では2024年10・11月に「摂」を上演。画家で舞台美術家の朝倉摂をモデルとした作品で、実娘であり舞台にも出演する富沢さんから上演の経緯などについてお話いただいた。大笹さんを含め、実際にご本人にお目にかかったことがある方が多く登壇しており、摂さんの思い出話に花が咲いた。イベントでは上演に先駆け、摂の父親(朝倉文夫)を演じる原さんと、摂を演じる荘田さんによる朗読が行われた。戦前から戦後にかけて、自分の道を獲得するために戦い続けた摂という唯一無二の女性の物語を一足早く堪能し、会場が深い感動に包まれた。

築地小劇場100年と文学座―文学座「摂」上演にちなんで― イベントレポート
朗読する原康義さん、荘田由紀さん

 「早稲田大学演劇学博物館2025年新収蔵品展」、『演劇博物館報』122号でもご紹介しているように、このたび富沢さんより、朝倉摂の舞台美術に関する貴重な資料や台本をご寄贈いただいた。文学座とともに朝倉摂についてのお話も伺える大変素晴らしい機会となった。
 最後に、今後の文学座について、諸先輩方から学んだ伝統を次の世代に継承することの重要性が語られた。「精神の娯楽」をモットーに作られた文学座の伝統が今後も真摯に受け継がれる未来を感じるた瞬間であった。

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左から荘田由紀さん、新橋耐子さん、館長、大笹吉雄さん、富沢亜古さん、原康義さん


▼ イベント詳細
築地小劇場100年と文学座―文学座「摂」上演にちなんで―

【執筆者】
赤井紀美(あかい・きみ)

東北大学文学研究科准教授。日本女子大学文学研究科博士課程前期終了。学習院大学人文科学研究科博士後期課程単位取得退学。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助教を経て2024年4月から現職。専門は 近世後期から近現代の日本演劇・芸能と文学。