早稲田大学演劇博物館では、1936(昭和11)年以来、創設者である坪内逍遙の業績をしのぶ会として逍遙祭を開催してきたが、本年は脚本家の長田育恵氏を講師にお迎えして開催した。
長田氏は早稲田大学在学中から脚本執筆を手掛け、2009年に劇団「てがみ座」を旗揚げ。数々の演劇賞を受賞。映像作品の脚本も執筆しており、2023年放送のNHK連続テレビ小説『らんまん』の脚本を担当。これにより第74回芸術選奨文部科学大臣新人賞(放送)を受賞した。
演劇博物館とも縁が深い長田氏は、坪内逍遙が主人公の戯曲『当世極楽気質』も執筆されている。牧野富太郎がモデルの連続テレビ小説『らんまん』では、逍遙をモデルとした登場人物・丈之助が活躍し、その情熱的なキャラクターは視聴者からも高い人気を得た。破天荒な丈之助から生まれた数々の名セリフがSNSでも話題になったことは記憶に新しい。
長田育恵さん
今回の講演では、逍遙の生涯を振り返りつつ、『らんまん』の丈之助が登場するシーンについて解説いただいた。各シーンの解説に際し、実際にドラマで使用された脚本を用い、俳優の今泉舞さん、岸野健太さんに朗読も行っていただいた。長田氏は牧野富太郎と逍遙の共通点などに触れつつ、逍遥は挫折を幾度も経験しながらも、それでもなお開拓者として高い山を登り続けてきた人物であると語られた。逍遙に対する長田氏の深い理解と尊敬の念があればこそ、丈之助というキャラクターが生まれたのだということを改めて感じることが出来た。
朗読する岸野健太さん、今泉舞さん
講演後は、長田氏と児玉竜一館長による対談を行い、舞台と放送の脚本執筆の違いや、連続テレビ小説の脚本を執筆したご感想など、様々なお話を伺った。
『らんまん』では、ドラマが大詰めを迎える第129回において、丈之助が「演劇の博物館」を作りたいと壮大な夢を語る。その言葉のとおり、逍遙という人物の情熱によって当演劇博物館は創設されており、今回の長田氏をお迎えしての講演は、まさに逍遙をしのぶ会にふさわしいものであったといえよう。改めて逍遙という人物の偉業を振り返る貴重な機会となった。
左から今泉舞さん、長田育恵さん、岸野健太さん
▼ イベント詳細
第87回逍遙祭「開拓者、逍遙-NHK『らんまん』に描いた逍遙像-」
赤井紀美(あかい・きみ)
東北大学文学研究科准教授。日本女子大学文学研究科博士課程前期終了。学習院大学人文科学研究科博士後期課程単位取得退学。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助教を経て2024年4月から現職。専門は 近世後期から近現代の日本演劇・芸能と文学。