秋季企画展開催を記念し、昭和22年に発足した民衆芸術劇場を前身として、昭和25年に創設された劇団民藝から樫山さん、日色さんをお迎えしてお話を伺った。おふたりは昭和30年代に入団され、滝沢修や宇野重吉など、劇団民藝の草創期の名優からメーキャップの方法から台本の読み方まで、丁寧に指導されたという。宇野の作品への解釈の深さ、また滝沢の視覚的な美へのこだわりなど、対照的なふたりの思い出が披露され、かつての劇団民藝の舞台が目に浮かぶようだった。
おふたりとも入団直後からテレビでも活躍しており、NHK朝の連続テレビ小説のヒロインに抜擢される。劇団民藝の財産でもある「アンネの日記」のアンネ役にも樫山さん、日色さんともに抜擢されており、同時期にテレビと舞台で大活躍した頃の興味深いお話を伺うことができた。
樫山文枝さん
築地小劇場に携わり劇団民藝の舞台監督を長らくつとめた水品春樹、劇作家の木下順二、ソビエトから帰国した岡田嘉子の思い出についてや、大滝秀治、奈良岡朋子などの劇団の先輩方や同期についてなど、劇団民藝の歴史と層の厚さを改めて感じる貴重なお話を聞かせてくださった。
日色ともゑさん
60年以上にわたり劇団民藝の舞台に立ち続けるおふたりのお話はまさに劇団民藝の歴史であり、戦後から近年に至るまでの新劇の歴史でもある。長いお付き合いながらきちんと共演するのは初めてという「八月の鯨」(2025年2月)についてや、これからの劇団民藝についても、明るく朗らかにお話くださった。おふたりしか知らない数多くの挿話は、歴史上の貴重な証言であり、今後の演劇研究にも大きく貢献する機会を得たと考える。
左から館長、日色ともゑさん、樫山文枝さん、大笹吉雄さん
▼ イベント詳細
築地小劇場100年と劇団民藝ー劇団創立75周年をむかえてー
赤井紀美(あかい・きみ)
東北大学文学研究科准教授。日本女子大学文学研究科博士課程前期終了。学習院大学人文科学研究科博士後期課程単位取得退学。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助教を経て2024年4月から現職。専門は 近世後期から近現代の日本演劇・芸能と文学。