日時:2018年1月15日(月)17:00-
会場:早稲田大学大隈記念講堂 大講堂
登壇者:鈴木忠志(演出家、劇団SCOT主宰)、渡辺保(演劇評論家)
上映映像:『劇的なるものをめぐってⅡ』(1970年初演)稽古記録映像
1970年5月早稲田小劇場初演『劇的なるものをめぐってⅡ』。演劇博物館では劇団SCOTから貴重な映像の提供を受け、1960年代以降の日本演劇で最も重要なひとつと目される作品の稽古を収録した映像の上映会を開催した。
上映会は、同作を初演時から高く評価してきた演劇評論家・渡辺保氏による作品解説、映像上映、同作の構成・演出を手がけた鈴木忠志氏と渡辺氏による対談という形で構成された。まずは渡辺氏の解説により、同作がベケット、泉鏡花、鶴屋南北の歌舞伎、都はるみの流行歌と、さまざまなジャンルから選ばれた言葉を解体、再構成する形で作られていることや当時の受容状況など、作品の前提となる情報が来場者に共有された。記録映像の重要性は言うまでもないが、初演時の状況を実際に知る者による証言もまた、作品の理解を深めるためには極めて重要なものである。
稽古を記録したものとはいえ、『劇的なるものをめぐってⅡ』の映像が上映されるのは今回が初めてということもあり、上映を前に、満員の大隈講堂からは来場者の静かな興奮と大きな期待が感じられた。今回上映された映像は、劇団SCOTがアナログ媒体で保存していたものをデジタル変換し、劣化していた映像と音声を一部復元したバージョン。作品の凄まじさは映像からもはっきりと感じられ、作品の持つエネルギーが来場者にも感染するかのようであった。
休憩を挟んで映像上映後の対談は、渡辺氏が鈴木氏に質問を寄せる形で行われた。鈴木氏のお話は当時の演劇創作をめぐる生々しい証言にとどまらず、同時に現代の日本で言葉や身体が置かれている状況を浮き彫りにする刺激的なもので、第一線で活躍しつづけてきた鈴木氏の創作の根源に迫る重厚なものだった。
本企画は伝説的な作品の一端に触れ、その今日的な意義を検討するための極めて貴重かつ有意義な機会となり、会場は大きな熱気に包まれた。
鈴木忠志(すずき ただし)
1939年生まれ。演出家。1966年、劇団SCOT(Suzuki Company of Toga-旧名 早稲田小劇場)を創立。1976年、早稲田から富山県利賀村に本拠地を移し、合掌造りの民家を劇場に改造して活動。1982年より、世界演劇祭「利賀フェスティバル」を毎年開催。俳優訓練法スズキ・トレーニング・メソッドから創られるその舞台は世界の多くの演劇人に影響を与えている。演出作品に『リア王』、『世界の果てからこんにちは』、『トロイアの女』、『劇的なるものをめぐってⅡ』など。著書に『内角の和』(而立書房)、『演劇とは何か』(岩波書店)、『演出家の発想』(太田出版)など。
渡辺 保(わたなべ たもつ)
演劇評論家。1936年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、東宝入社。1965年『歌舞伎に女優を』で評論デビュー。東宝企画室長を経て退社、多数の大学で教鞭をとる。歌舞伎をはじめとする古典演劇から、現代演劇まで幅広く論ずる。2000年11月紫綬褒章、2017年3月藝術院賞恩賜賞ほか、受賞多数。著書に『女形の運命』(芸術選奨新人賞)、『俳優の運命』(河竹賞)、『昭和の名人豊竹山城少掾』(吉田秀和賞)、『黙阿弥の明治維新』(読売文学賞)ほか多数。