enpaku 早稲田大学演劇博物館

展示趣旨

Words, words, words.―松岡和子とシェイクスピア劇翻訳

展示趣旨

   2020年12月、松岡和子さん(翻訳家・演劇評論家)は『終わりよければすべてよし』訳了をもって、シェイクスピアの戯曲37作を完訳しました。シェイクスピア劇全作品の翻訳では、坪内逍遥と小田島雄志に続き日本人3人目、女性
としては初の偉業です。これまで、新聞、テレビ、雑誌などで松岡さんの様々な特集が組まれてきましたが、その翻訳活動に光を当てた展示は日本で未だ行われていません。
   松岡さんのシェイクスピア劇翻訳は、ページ(書斎)とステージ(舞台・稽古場)を行ったり来たりしながら進化し続けています。特筆すべきは、その翻訳が演出家や俳優との共同作業であり、「今を生きる」わたしたちにより自然な日本語であるということです。声に出して読んでみれば、シェイクスピアが描いたシーンのイメージが頭の中にスッと浮かんできます。ちくま文庫版の翻訳と脚注は増刷の度に密度が増し、松岡さんのシェイクスピア劇への情熱で溢れています。
   2022年度早稲田大学坪内博士記念博物館特別展「Words, words, wordsー松岡和子とシェイクスピア劇翻訳」は、松岡さんのシェイクスピア劇37作品完訳という偉業達成を記念して行われるものです。松岡さんがシェイクスピアの言葉と向き合ってきた28年もの日々の軌跡を、直筆翻訳ノート、翻訳原稿、上演台本などを通してたどります。舞台写真やチラシ、ポスターとともに、ゆかりの深い演出家・俳優とのエピソードも紹介します。本展は、松岡さんの翻訳の魅力を広く紹介し、松岡さんが日本のシェイクスピア劇受容・翻訳・上演史に加えた新たな1ページを未来へ繋いでいくことを目指しています。
   松岡さんは、シェイクスピアを「愚かしさも含めてトータル(総体)として人間というものを肯定する」劇作家と評しています(彩の国シェイクスピア・シリーズ『終わりよければすべてよし』公演プログラムより)。普段シェイクスピア劇に馴染みのないお客様にも、シェイクスピアの豊かな言葉から発信される人間を“肯定する”エネルギーを、松岡さんの翻訳を通して感じていただければ幸いです。