Prologue では、松岡和子さんがシェイクスピア劇の翻訳を本格的に手掛ける前のご活動を振り返ります。東京女子大学英文科の学生時代以来、難解なシェイクスピアから逃げたつもりになったその度に、シェイクスピアに通せんぼされ、その大半に『夏の夜の夢』がからんでいたそうです。大学2年のとき、シェイクスピア研究会(通称シェイ研)をのぞいてみるも難しくて入部を断念……したと思ったら、新入生歓迎会の公演『夏の夜の夢』のボトム役に担ぎ出されます。
劇団雲の旗揚げ公演『夏の夜の夢』が面白くて、大学卒業後には同劇団の文芸部研究生に。その後、修行のつもりで東京大学大学院に進み、修士論文はジョン・フォードの『哀れ彼女は娼婦』(創作年代は1620年代頃)について書きますが、この芝居も『ロミオとジュリエット』の影響を受けているのです。修士課程修了後には、美術評論や小説などの翻訳を手掛けはじめ、東京医科歯科大学の教授として働きながら、同時に現代英米演劇の翻訳にも取り組みます。そうしているうちに、1992年、ついに演出家・俳優の串田和美さんからシアターコクーンで上演する『夏の夜の夢』の翻訳オファーが来ました。
これまで手がけたシェイクスピア劇以外の多様なジャンルの翻訳経験を経て、松岡さんがシェイクスピア劇翻訳の世界へ一歩踏み出すまでの歩みをたどります。