enpaku 早稲田大学演劇博物館

第2章 映画との旅

村上春樹 映画の旅

第2章 映画との旅

   作家としてのデビュー以降、村上は小説以外にもさまざまな文章を書いてきた。村上の作品リストには、エッセイから紀行文、対談本や読者とのメールのやりとりをまとめたものまで、実に多様なジャンルの著書が存在している。そして、それらの文章には、「映画」の一語が繰り返し登場してきた。かつて見て印象に残っている映画から原稿の執筆時にたまたま見た作品まで、製作された年代や国も多岐にわたる数多くの映画が、それらの文章において触れられてきたのである。
   本章では、小説以外の著作において村上が言及してきた映画を取り上げる。登場の仕方は実にさまざまである。作品の感想が詳しく書かれるときもあれば、タイトルのみがさらっと触れられるだけのこともある。エッセイでは、安西水丸の魅力的なイラストが添えられる『村上朝日堂』シリーズをはじめとして、実に多くの映画作品が言及されてきた。学生時代に見た任侠映画から公開されたばかりのクリント・イーストウッド監督の作品に至るまで、村上がいかにして映画と同時代的に生きてきたかがよくわかる。また村上は、旅先で映画を見ることが好きだと公言しており、紀行文でも頻繁に映画に言及している。イタリア、ギリシャ、アメリカ等々の国で映画を見た経験が語られるばかりでなく、旅先での経験談の途中で思いがけないタイトルが挙がることもある。対談や読者とのメールなどでも映画はしばしば共通の話題となり、村上の映画に対する知識や感想が引き出されてきた。
   村上が実際にどのような映画を見てきたのか、そしてそれについていかなることが述べてきたのかを知ることは、その小説世界を理解するうえで無関係ではないだろう。そうした著作での記述から、その小説世界を読み解くことも面白いかもしれない。本章では、映画について語る村上のいきいきとした文章と、そこで言及される数々の映画の資料が持つ両方の魅力に触れていただきたい。


『地獄の黙示録』プレスシート

  


『シェーン』プレスシート