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イベントレポート

早稲田大学演劇博物館 イベントレポート

名作シナリオを楽しもう 傑作ドラマ『アフリカの夜』ふたたび!トークショー

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2018年11月、作家の村上春樹さんが母校の早稲田大学に資料を寄贈するにあたり、記者会見で次のように述べた。「僕はあまり授業には熱心に出なかったんですが、演劇博物館にはよく通って、そこで映画の古いシナリオを読んでいました。映画を観るお金のないときなんか、シナリオを読みながら頭の中で勝手に自分の映画を作っていました。そういう体験は小説家になってから、少しは役に立ったかもしれません。」
これを受けて、シナリオに注目してほしいという願いを込めて、演劇博物館では「名作シナリオを楽しもう」プロジェクトを立ち上げることにした。その第一弾が、トークショー「傑作ドラマ『アフリカの夜』ふたたび!」である。
 
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「アフリカの夜」は、1999年にフジテレビ系列で放送され、多くの女性たちの共感を呼んだ。当時はなぜか視聴率がさほどふるわずソフト化もされなかったが、今なお熱烈なファンの多いドラマである(現在ではFOD<フジテレビオンデマンド>で配信されている)。
このドラマは、礼太郎という一人の男性をめぐる三角関係(ブラコンの妹も入れれば四角関係だ)も一つの軸にはなっているが、いわゆる恋愛ドラマではなく、アパート「メゾン・アフリカ」を舞台に人生の岐路に立つ女性たちを描いた群像劇だ。結婚式で新郎が業務上横領容疑で逮捕され、元恋人の礼太郎の存在に揺れながらも塾講師の仕事をつかみ取ろうとする八重子、女優として生き残れるかどうかの瀬戸際で礼太郎のこどもを身ごもる有香、ブラコンながら兄の恋を受け入れてゆく礼太郎の妹・緑、そして時効まで逃げ切ろうとする殺人事件の犯人・みづほ。彼女たちはそれぞれに大きな選択を迫られ、葛藤しながら友情を選び取っていく。
 
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トークショーには、脚本家の大石静氏、出演者の室井滋氏、ともさかりえ氏、プロデューサーの山口雅俊氏、演出の宮本理江子氏、作家の柚木麻子氏という豪華なゲストをお迎えし、演博館長の岡室が司会を務めた。そして大石氏とフジテレビのご協力の下、数々の名シーンの脚本と映像を振り返りながら作品成立の背景や当時の状況を伺うという、たいへん贅沢な時間となった。
 
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たとえば、実は、別の脚本家が山口氏の構想するドラマの独特な世界観を書くことができず山口氏がこの作家を降板させ大石氏はピンチヒッターとして起用されたこと、当然脚本執筆までの準備期間はほとんどなかったが、かねてより一緒に仕事をすることをお互い熱望していたため大石氏が山口氏の無理なオファーを受けたこと、何度も反復される名せりふ「道は開かれている」がスタインベックの『エデンの東』の重要なセリフからヒントを授けられたものであったことなど、さまざまな興味深い事実が山口氏や大石氏の証言で明らかになった。
 
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また、シナリオでは第1話のエンディングで多くの出演者のせりふがほとんど「……。」となっており、それがどう演じられたかを映像で確認した。俳優の演技に委ねる「……。」は、芸達者な俳優たちへの信頼の表れであったという大石氏の言葉に、映像を見た誰もが納得した。また、アナーキーだが実は心優しい緑を個性豊かに演じたともさか氏の演技をご本人とともに振り返り、その上手さに改めて舌を巻いたお客様も多かったと思う。さらに、整形手術を繰り返して逃亡した福田和子をモデルとしたみずほがヒロイン八重子に詰め寄るシーンや、みずほが逃亡の末に逮捕されるシーンの台本と映像は圧巻で、室井氏の鬼気迫る演技にお客様から盛大な拍手が贈られた。最終話の逮捕シーンからエンディングにかけての詩情溢れる感動的なシークエンスに、登壇者・お客様ともに涙ぐむ方が多く(司会者もその一人である)、演出の宮本氏の細やかな演出に改めて瞠目した。
 
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このドラマを愛してやまない柚木氏による、メゾン・アフリカの階段の機能などさまざまな鋭い分析も披露され、思い出話にとどまらず、多角的で重厚な内容となった。
 
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『アフリカの夜』は、名プロデューサーの下、優れた脚本家・演出家・俳優が集結した奇跡のようなドラマであり、その魅力や女性の連帯という今日的なテーマは、放送からちょうど20年を経た現在も、決して古びることなく私たちを感動させ、励ましてくれる。そのことを確認できた有意義なトークショーであった。20年後を描く続編をぜひ!という希望も多くのお客様から寄せられ、これを機に実現を期待したいところである。
 
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文責:早稲田大学演劇博物館館長 岡室美奈子
 
 

登壇者

大石静(脚本家)、室井滋(俳優・エッセイスト)、ともさかりえ(俳優)、山口雅俊(プロデューサー、監督)、宮本理江子(ドラマディレクター)、柚木麻子(作家)
 

司会

岡室美奈子(早稲田大学演劇博物館 館長)
 

WEB

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主催:早稲田大学演劇博物館、新宿から発信する「国際演劇都市TOKYO」プロジェクト実行委員会
助成:bunkacho_logo 平成31年度 文化庁 地域の博物館を中核としたクラスター形成事業
協力:株式会社フジテレビジョン