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イベントレポート

早稲田大学演劇博物館 イベントレポート

ジャパン・ハウス ロンドンにて、国際シンポジウム「古典芸術の未来を創る Classical Arts×Digital Technologies」を開催

日時:2019年6月29日(土)14:00-16:30
会場:ジャパン・ハウス ロンドン(イギリス・ロンドン)
主催:早稲田大学演劇博物館・演劇映像学連携研究拠点、ジャパン・ハウス ロンドン
共催:バーミンガム大学、スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点

イベントレポート

2019年6月29日、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館は、外務省が設置した日本を総合的に発信する海外拠点のジャパン・ハウス ロンドンで、国際シンポジウム「古典芸術の未来を創る Classical Arts×Digital Technologies」を開催しました。この催しは、演劇博物館の所蔵する「新富座妖怪引幕」(河鍋暁斎画、幅17メートル、高さ4メートル)が大英博物館のマンガ展「The Citi exhibition Manga」(会期:5月23日~8月26日)に目玉のひとつとして出品されたこと、演劇博物館がこの資料の高精細画像によるデジタル保存と利活用を試みたことを契機として行われ、ジャパン・ハウス ロンドンとの共同主催、バーミンガム大学、スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点の共催によって実現しました(シンポジウムの内容はこちらからご覧ください)。

多くの来場者が集まり満席となった会場で行われたシンポジウムは、本学の笠原博徳副総長による開会の挨拶で始まり、ジャパン・ハウス ロンドン企画局長であるサイモン・ライト氏の司会によって進行されました。

第1部「デジタルテクノロジーで甦る古典芸術・芸能」では、現代のデジタルテクノロジーによって伝統的な文化・芸能がどのように現代・未来へと保存・活用されうるのかが議論されました。まず演劇博物館の岡室美奈子館長により「演劇博物館における古典芸術とデジタルテクノロジーの出会い」と題した講演が行われました。演劇博物館の資料や展示の紹介とともに、演劇博物館で行われてきた能面の3Dデータベースくずし字OCRの取り組み、そして妖怪引幕のアニメーションの紹介がなされ、デジタルテクノロジーを使ったイノベーションによって古典芸能の多様な資料の新しい見せ方が開拓されてきたことが説明されました。凸版印刷の協力によって高精細画像をもとに制作された妖怪引幕のアニメーション(長尺版)は世界初披露となり、来場者の注目を大いに集めて会場を盛り上げました。

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岡室美奈子教授(早稲田大学演劇博物館館長)

河鍋暁斎画・妖怪引幕アニメーション 告知版

制作著作:早稲田大学坪内博士記念演劇博物館/凸版印刷株式会社

次いで、「デジタル人文知による文化の保存」と題した発表と対話が行われました。バーミンガム大学講師のマット・ヘイラー氏は、デジタルテクノロジーを使って資料を保存する際の可能性や課題のそれぞれをより一般的な視点から解きほぐして説明しました。次いで具体的な事例として、本学のドミニク・チェン准教授より、氏の行ってきた取り組みのなかから縄文土器3Dデータのオープンソース公開が開いた多様な二次利用の例、またぬか床をロボット化したNukaBotの例、「10分遺書」の例などが紹介されました。資料のデジタル保存と利活用の展望から、伝統文化とデジタルデータの多様な出会いまで多岐にわたる話題を踏まえて議論が行われました。来場者との質疑応答では、匂いやクオリアといったデジタル化できない対象の保存の問題から、東日本大震災を契機として再認識されたデジタル保存の意義まで活発な対話がなされました。

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(左)マット・ヘイラー講師(バーミンガム大学) (右)ドミニク・チェン准教授(早稲田大学)

第2部「妖怪引幕について」では、大英博物館のマンガ展、河鍋暁斎、妖怪引幕のそれぞれの視点から講演が行われました。まず大英博物館アジア局日本部門長のティム・クラーク氏より「河鍋暁斎と日本美術の新たな出発」と題して、幕末から明治にかけて活躍した河鍋暁斎に焦点を当てて様々な作品が紹介され、現代のマンガに繋がる側面に光が当てられました。次いで大英博物館アジア局日本部門キュレーターのニコル・クーリッジ・ルマニエール氏より「大英博物館マンガ展と河鍋暁斎の妖怪引幕」の講演が行われ、マンガ展の説明とともに、このなかでの河鍋暁斎の妖怪引幕の位置づけが説明されました。第2部の最後には、児玉竜一演劇博物館副館長より「河鍋暁斎「妖怪引幕」の遍歴」という講演が行われ、「妖怪引幕」が演劇博物館に収蔵される前には日本国内でも多様な人々の手をわたり、一時は海を渡っていたことなどが明かされました。第2部の終わりにも来場者を交えて様々な話題についての質疑も行われました。

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ティム・クラーク氏(大英博物館アジア局日本部門長)

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ニコル・クーリッジ・ルマニエール氏(大英博物館アジア局日本部門キュレーター)

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児玉竜一教授(演劇博物館副館長)

シンポジウムの最後にはバーミンガム大学のロビン・メイソン副学長より閉会の挨拶が行われ、バーミンガム大学と本学の共同研究の連携プロジェクトを踏まえて開催されたこの催しの意義が強調されました。
今回、この国際シンポジウムを開催したことで、演劇博物館と早稲田大学の最新テクノロジーを用いた研究活動をイギリスの方々に広く知っていただくことができました。こうした活動の蓄積は、演劇博物館ひいては早稲田大学の国際的な認知度を高め、当館の活動がさらに国際的な連携事業へと発展していくことにつながると考えています。

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シンポジウム登壇者 左より児玉竜一教授(演劇博物館)、ニコル・クーリッジ・ルマニエール氏(大英博物館)、マット・ヘイラー講師(バーミンガム大学)、ロビン・メイソン教授(バーミンガム大学副学長)、岡室美奈子教授(演劇博物館)、笠原博徳教授(早稲田大学副総長)、ドミニク・チェン准教授(早稲田大学)、ティム・クラーク氏(大英博物館)、サイモン・ライト氏(ジャパン・ハウス ロンドン企画局長)

なお、シンポジウム前日には大英博物館のマンガ展を訪問し、妖怪引幕が会場中央に大きく展示されて、日本の漫画史のなかに位置づけられている様子を視察してきました。またシンポジウム後には在英国日本国大使館に鶴岡公二駐英国特命全権大使を表敬訪問しました。鶴岡大使からは、妖怪引幕が大英博物館のマンガ展で展示されたことの重要性や伝統文化をデジタル技術によって新しく見せる試みの意義を高く評価していただき、今後のさらなる日英の大学連携に関して助言をいただきました。

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大英博物館マンガ展訪問