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早稲田大学演劇博物館 イベントレポート

国際シンポジウム 日本演劇・映画人の〈台湾時代〉―植民地舞台にみる文化的交錯―

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シンポジウムの様子
 
台湾は「親日国」というイメージが定着しつつある今日ですが、終戦まで大日本帝国の植民地だった台湾は、当時の日本人にとってどのような地域だったでしょうか。勿論、「親日国」とも言えず、さらに「土匪跳梁(どひちょうりょう)」「生蕃蜂起(せいばんほうき)」などの恐ろしい負のイメージも日本人の心に深く刻みこまれていました。そういった時代にもかかわらず、数多くの日本演劇・映画人が台湾に進出し、植民地の舞台で活躍しました。
 
文化庁補助金事業「地域の博物館を中核としたクラスター形成事業」の一環として、11月13日に「日本演劇・映画人の〈台湾時代〉―植民地舞台にみる文化的交錯―」国際シンポジウムが開催され、これまであまり重視されてこなかった日本演劇・映画人の視点から、植民地台湾と宗主国日本との文化的交錯について再考を試みました。
国際シンポジウムは二部構成でした。第1部は研究発表で、台湾の国立政治大学大学院呉佩珍先生、日本大学三澤真美恵先生、演劇博物館助手李思漢の三名が、それぞれ日本の新劇・映画・伝統芸能と植民地台湾との関わりについて報告しました。
 
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国立政治大学大学院 呉佩珍先生
 
まず、呉先生は台湾の先住民族文化を取り入れた川上音二郎の「オセロ」と益田太郎の「生蕃襲来」の二作を取り上げ、日本演劇人が演劇を通してどのような姿勢で大日本帝国の植民地経営に参画していたかについて考察しました。次に、三澤先生は「映画受容の分節的経路」を例示しながら、植民地期の日本人の映画活動が戦後台湾の映画活動に引き継がれていった様相を報告しました。最後に、李が当時の日本人社会で流行っていた「素人義太夫」の発展状況を概略的に紹介し、また日台の伝統芸能の素人衆の異同を比較しつつ、植民地における素人演芸の特徴を説明しました。
 
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日本大学 三澤真美恵先生
 
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演劇博物館助手 李思漢
 
第2部では、東アジア芸能の交流に詳しい立教大学細井尚子先生と演劇博物館助教後藤隆基が、俯瞰的な視座から三人の発表に対してコメントし、日本国内の視点や当時の人々の体験などにも基づいて総括を行いました。
 
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立教大学 細井尚子先生
 
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演劇博物館助教 後藤隆基
 
今回のシンポジウムはマイナーなテーマだったかもしれませんが、植民地台湾に関心を持つ大勢の方々がご来場下さいました。来場者から、発表内容が興味深く面白いといったコメントを多数いただき、また、台湾だけでなく、南洋や朝鮮や満州について、また中国映画に関する企画もやってほしいなどのリクエストもありました。とりわけ、来場者の理解を促進するために編集、配布した日本語と繁体中国語による予稿集が大好評で、「非常に参考になった」という感想が寄せられました。
 
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予稿集
 
本シンポジウムの開催に合わせ、高松豊次郎が創立した「台湾正劇練習所」の巡演ポスター(演劇博物館所蔵)も初公開されました。高松豊次郎は戦前台湾に進出した興行師の一人であり、彼の業績は今回のシンポジウムでも屡々取り上げられました。興味深く示唆に富んだ発表のほか、当時の演劇の姿を生き生きと語るこうした資料も展示され、今回のテーマについて多面的な理解ができたと評価されています。今後も引き続きこの方面の研究や交流を進めていきたいと思います。皆さまのご理解、ご支援をお願い申し上げます。
 
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台湾正劇ポスター
 
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開場時の様子
 
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左から、後藤隆基助教、細井尚子先生、三澤真美恵先生、呉佩珍所長、李思漢助手
 

登壇者

呉佩珍(台湾・国立政治大学大学院台湾文学研究所所長)、三澤真美恵(日本大学文理学部教授)、李思漢(早稲田大学演劇博物館助手)
 

コメンテーター

細井尚子(立教大学異文化コミュニケーション学部教授)、後藤隆基(早稲田大学演劇博物館助教)
 

WEB

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主催:早稲田大学演劇博物館、新宿から発信する「国際演劇都市TOKYO」プロジェクト実行委員会
助成:bunkacho_logo 平成31年度 文化庁 地域の博物館を中核としたクラスター形成事業
協力:台湾・国立政治大学大学院台湾文学研究所、日本大学、立教大学アジア地域研究所