会場:早稲田大学大隈記念講堂 小講堂
早稲田大学演劇博物館では、開館90周年を記念した企画展「歌舞伎と文楽のエンパク玉手箱」を開催しています(8月5日まで)。
展示にあわせて、歌舞伎・文楽に関わるイベントをいくつか予定しており、5月25日には、「染五郎13歳、ハムレットを読む」と題して、歌舞伎俳優の市川染五郎さんにシェイクスピアの「ハムレット」の一部を朗読していただきました。
これは演劇博物館創設者である坪内逍遙の誕生日(5月22日)前後に例年開催している「逍遙祭」として行ったもので、逍遙訳を中心とした「ハムレット」を読んでいただこうという催しでした。
今年の1月・2月に歌舞伎座で八代目市川染五郎を襲名されたばかりの染五郎さんは、歌舞伎俳優の中でもシェイクスピアになじみの深い家系です。「ハムレット」は、祖父二代目松本白鸚さんが1960年にテレビで演じておられ、これが当時最年少記録の18歳でした。
この記録を破ったのが父十代目松本幸四郎さんで、1987年に14歳で演じられました。幸四郎さんは、歌舞伎版ハムレット「葉武列土倭錦絵」でロンドン公演も行っておられます。
今回の朗読は、今ならば13歳の染五郎さんが父幸四郎さんの記録を破れる、というところから、幸四郎さんの親友であり知恵袋でもある常磐津和英太夫こと歌舞伎研究者の鈴木英一さんが発案されたものです。
原作から8場面を選んだ台本は、幸四郎さんの構成。ハムレット以外のすべての役、ホレイショー、ポローニアス、劇中劇の役者、クローディアス、ガートルード、墓掘りなど、多彩な役を陰マイクで演じ分けられたのも幸四郎さんです。老若男女をいとわぬ幅広い役柄を歌舞伎で勤めてこられた経験が、意外なところに活きた形でした。
13歳初陣の染五郎さんは、正に初々しく、「母上」を連呼する声音が印象的。一方、終幕では歌舞伎ゆずりの、役柄に応じた発声の違いによって、幕を切るのにふさわしいフォーティンブラスを聞かせました。遠からぬ将来、舞台上で凜々しいハムレットに再会する日があることを期待させて、満場を魅了しました。
休憩を挟んでアフタートーク。聞き手は、発案者の鈴木英一氏と演劇博物館副館長の児玉竜一。最初は戸惑ったけれどハムレットという役に惹かれるようになった経緯や、幸四郎さんの指導の様子、クラブ活動を通しての歴史や幕末への憧れなどを、率直に語って下さいました。
途中から幸四郎さんも急遽参戦、中間試験の合間を縫ってのお稽古ぶりを披露、あくまで演劇として演じた最年少は自分であることを強調して、会場の笑いを誘っておられました。
(児玉竜一記)
終演後、モニター中継の会場にサプライズで登場した松本幸四郎さん、市川染五郎さん
左から:児玉竜一副館長、市川染五郎さん、松本幸四郎さん、鈴木英一さん
出演:八代目市川染五郎
聞き手:鈴木英一(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
司会:児玉竜一(早稲田大学演劇博物館副館長)